「オバマ大統領の就任演説は期待はずれ 対日政策と環境政策に多大な懸念」
『週刊ダイヤモンド』 2009年1月31日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 774
1月21日午前2時(日本時間)のバラク・オバマ米国新大統領の就任演説は期待はずれだった。メディアでは米国も日本も、新大統領への期待値を高めるばかりの報道が目立ったが、大統領のメッセージにはその熱狂に応えるだけの大戦略も力強さも欠けていた。
新政権の評価は、まず、100日間、仕事をするチャンスを与えたうえで行なうのが妥当とされており、誕生直後の政権を論ずるのは早過ぎるかもしれない。そのことを承知で指摘したいのは、対日政策についての懸念である。
外交の直接の最高責任者、国務長官にヒラリー・クリントン氏が、その下で実務を取り仕切る次官補にはカート・キャンベル氏が、ほぼ決定ずみだ。
クリントン氏は国務長官就任を前に、指名承認に関する上院公聴会で、外交の基本を「スマートパワー」に置くと語った。これは明らかに、民主党ブレーンや党中枢で強い支持を得ている「ソフトパワー」の変型であろう。
ソフトパワーとは、軍事力を背景にした圧力や対立含みの姿勢で外交を行なうのではなく、柔軟な話し合い路線を優先する外交だ。具体例の一つが、中国を「責任ある利害共有者」と位置づけた外交である。
不透明な軍事費の増額や人権侵害問題などを正面から論難するより、良好な米中関係を築き、信頼醸成の過程で、中国に問題解決を促していくべきだという考えだ。その大前提は、中国の現状を中国の抱える問題もろとも、まず受け入れることである。現状批判は避けて、相手が受け入れやすいかたちで問題提起していく外交ともいえる。
クリントン氏がソフトパワーと言わずにスマートパワーと言ったのは、たとえばアフガニスタンへの派兵を増強し、テロとの戦いを強化しようとするオバマ大統領のこの地域での“強硬外交”を意識してのことか。「日米同盟は米国のアジア政策の要石」と発言したものの、クリントン氏の中国重視の基本路線に変化はないなか、日本にとってとりわけ深い意味を持つのはキャンベル氏の次官補就任である。
たとえば、氏の拉致問題に関する姿勢である。米国務省にはヒル前国務次官補のように、拉致問題は日本人の感情的問題として切って捨てる人物もいる。感情的問題は外交政策とは切り離すのが正しく、したがって、対北朝鮮外交は拉致に影響されない次元で進めるべきという考えだ。キャンベル氏もこの考えに近いといってよいだろう。日本はこれまで以上に対北朝鮮外交において、孤独な闘いを迫られるだろう。
もう一つ、日本がとりわけ強い影響を受けることになるオバマ政権の人事は、エネルギー長官のスティーブン・チュー氏である。氏は中国系人物で、ノーベル物理学賞受賞者である。新設ポストのエネルギー・温暖化問題の政策調整担当には、クリントン政権下で連邦環境保護局長官を務めたキャロル・ブラウナー氏の起用が報じられた。環境問題についての陣営はしっかりと整った印象だ。
強力な人事体制、しかも筆頭は中国系人材。さらにオバマ政権の最重要政策の一つが環境政策である。ブッシュ前政権とは異なり、オバマ大統領が温暖化対策に力を入れ、CO2の排出権取引に果敢に取り組んでいこうとしているのは周知である。
当欄でも幾度か報じてきたが、排出権取引は、日本をターゲットにした仕組みといえる。日本は世界一、省エネを進め、CO2の排出を最少化してきた。にもかかわらず、京都議定書では、日本一国が懲罰的なかたちで排出権を買い取らねばならない、つまり、膨大な額の支払いをしなければならない仕組みが、出来上がっている。
日本は、まず、この環境分野で米国新体制が緊密な米中関係に基づいて突きつけてくるであろう不合理で厳しい要求に、より合理的で公正な案をもって対抗しなければならないだろう。
今そこにある危機(292)
「オバマ米大統領が狙う北朝鮮地下資源 2009年2月2日(月)15時0分配信 内外タイムス バラク・オバマ米大統領(47)が北朝鮮の地下資源を狙う!? 未曽有の経済危機をどのように乗り越え…
トラックバック by アニメじゃない!ほんとのことさ。 — 2009年02月07日 09:24
バラク・オバマ大統領就任演説を見て感じたこと。
20日、バラク・オバマが第44代アメリカ大統領に就任しました。 そのまま英語の教科書に使えそうな立派な演説でした。
トラックバック by ecostock — 2009年02月22日 10:43